「宇宙の地図」を作る望遠鏡が、ついに完成した

夜空を見上げたとき、星がいくつ見えますか? 晴れた日でも、肉眼で見えるのはせいぜい数千個。でも実は、宇宙には私たちが「まだ一度も見たことすらない」領域が、ごっそり残っているんです。

そのベールを剥がすかもしれない望遠鏡が、ついに完成しました。


ハッブルの「100倍広い視野」を持つ宇宙の目

NASAが開発を進めてきた「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が、いよいよ完成を迎えました。2025年9月の打ち上げを目指して、現在は最終準備の段階に入っています。

この望遠鏡の名前は、NASAで初めて天文学の責任者を務めた女性科学者、ナンシー・グレース・ローマン博士に由来しています。「ハッブル宇宙望遠鏡の母」とも呼ばれる人物です。

そのハッブル望遠鏡といえば、宇宙の絶景写真を何枚も届けてくれた、みなさんもご存じの名機。でも今回完成したローマン望遠鏡は、ハッブルと比べてもケタ違いの性能を持っているんです。


「1枚の写真」でハッブルの100倍の空が撮れる

ハッブル望遠鏡が宇宙を撮影するとき、その「視野の広さ」は、夜空に浮かぶ満月と比べてずっとずっと小さい範囲しか写せません。イメージとしては、広いパノラマの景色を、小さな虫眼鏡の穴から覗いているような感じです。

ところがローマン望遠鏡は、1枚の写真でハッブルの約100倍もの広い空を一度に写せます。つまり、虫眼鏡の穴が突然、大きな窓ガラスになるようなイメージ。広大な宇宙を、これまでより圧倒的に「まとめて」眺められるようになるんです。

しかも画質はハッブルと同じくらいシャープ。広さと精細さを両立させた、いわば「超広角・高画質カメラ」が宇宙に飛び立つわけです。


宇宙の「見えない何か」を追いかける

ローマン望遠鏡には、大きなミッションが2つあります。

ひとつは「ダークエネルギー」の謎に迫ること。ダークエネルギーとは、宇宙をどんどん膨らませている正体不明の「力」のことです。宇宙全体のエネルギーの約7割を占めているとされているのに、誰も直接見たことがない。料理に例えると、鍋の中身がどんどん増えているのに、何を足したか誰もわからない、という状態です。

ローマン望遠鏡は宇宙の広い範囲を観測することで、銀河の広がり方のパターンを読み取り、このダークエネルギーの正体に少しでも近づこうとしています。

もうひとつは「ダークマター(暗黒物質)」の分布を調べること。ダークマターとは、光を出さないし反射もしないけれど、重力だけはしっかり持っている謎の物質です。宇宙の「見えない骨格」と呼ばれることもあります。この骨格がどこにどれだけあるかを、ローマン望遠鏡は丹念にマッピングしていく予定です。


系外惑星も、直接「目で見る」時代へ

さらにローマン望遠鏡には、特別な装置も搭載されています。「コロナグラフ」と呼ばれる、星の光を人工的に遮るフィルターです。

太陽の周りを回る惑星が見えにくいのは、太陽の光が眩しすぎて惑星がかき消されてしまうから。地球から見た太陽と、その近くの惑星の明るさの差は、はるかかなたから懐中電灯と蛍の光を同時に見分けるようなもの。それくらい難しい。

コロナグラフは懐中電灯の光だけをブロックして、蛍の光だけを浮かび上がらせる技術です。これによって、太陽系の外にある惑星(系外惑星)を、これまでより直接的に観測できるようになります。将来的には、地球に似た惑星を直接「見る」ことすら夢ではないんです。


この望遠鏡が変える、宇宙の常識

ローマン望遠鏡の完成は、天文学の歴史において本当に大きな一歩です。

これまで宇宙の地図は、狭い範囲をちまちまと撮り続けて、パズルのように組み合わせるしかありませんでした。ローマン望遠鏡は、そのパズルを一気に大きなピースで埋めてくれる存在。宇宙全体の「大きな構造」が、はじめてクリアに見えてくるかもしれません。

ダークエネルギーの正体がわかれば、宇宙の「終わり方」についての理解が根本から変わる可能性があります。宇宙はこのまま膨張し続けるのか、それとも……?


2025年9月、扉が開く

打ち上げは2025年9月の予定です。

宇宙に飛び出したローマン望遠鏡は、地球から約150万キロメートル離れた場所——地球と太陽の引力がちょうどつり合う「ラグランジュ点」と呼ばれる安定した位置——で観測を開始します。

「宇宙に見えない何かがある」とわかっているのに、それが何なのか誰もわからない。その謎に人類が一歩踏み込む瞬間が、もうすぐそこまで来ています。

ローマン望遠鏡が初めて届ける宇宙の映像を、一緒に楽しみに待ちませんか?