「ビッグバンの前には何があったの?」という最大の謎に、新たな光が当たった
宇宙はどうやって始まったのでしょうか。
「ビッグバン」という言葉は聞いたことがあると思います。でも実は、その「始まりの瞬間」をちゃんと説明できる理論は、今の科学にはまだ存在していないんです。カナダのウォータールー大学の研究チームが、その長年の謎に大きく切り込む新しい理論を発表しました。
そもそも「ビッグバン理論」の何が問題なの?
ビッグバン理論とは、今から約138億年前、宇宙が針の先よりもはるかに小さい1点から爆発的に膨張して始まった、という考え方です。
でもここに、長年頭を悩ませてきた問題があります。
ビッグバン直後の宇宙は、信じられないほど小さくて、信じられないほど高エネルギーな状態でした。そういう極限の世界を説明するには、「重力の理論」と「量子力学(原子よりもずっと小さい世界を支配するルール)」の両方が必要になります。
ところが、この2つの理論はいまだに「仲が悪い」んです。それぞれ単独では宇宙をうまく説明できるのに、合体させようとすると計算が破綻してしまう。これは物理学が100年以上抱えてきた最大の難問のひとつです。
さらにもう1つ問題があります。現在の観測によると、ビッグバンの直後に宇宙は一瞬でものすごいスピードで膨らんだ時期がある、と考えられています。これを「インフレーション(急膨張)」と呼びます。
イメージとしては、風船がほんの一瞬で豆粒から地球サイズになるような膨張です。でも「なぜそんな膨張が起きたのか」については、まだ謎のままでした。
研究チームが見つけた、新しいピースとは?
ウォータールー大学の研究チームは、「二次重力理論(にじじゅうりょくりろん)」と呼ばれる、重力の方程式を少しだけ拡張したモデルを使いました。
「拡張」と言うとピンとこないかもしれませんが、こんなふうに考えてみてください。
たとえば、地図アプリで道を調べるとき、普通のルート検索は「現在地から目的地まで」しか考えません。でも「渋滞情報」や「高低差」まで加味した、もっと精度の高い検索もできますよね。
二次重力理論は後者のようなもの。今まで無視していた「極限状態での重力のふるまい」をちゃんと計算に組み込んだ、より精密なバージョンの理論なんです。
この理論を使って宇宙の始まりを計算し直したところ、驚くべきことがわかりました。
あの「インフレーション(急膨張)」が、特別な仕掛けなしに、自然とこの理論から導き出せてしまったんです。
つまり「なぜ宇宙は急膨張したのか?」という謎に対して、「そういう性質が重力の根本的なルールの中にもともと入っていたから」という答えが見えてきた、ということです。これはすごくないですか?
今まで「急膨張」を説明するためには、正体不明のエネルギーや特別な仮定を外から付け加える必要がありました。でもこの理論なら、余計なものを足さなくても話が成り立つ。料理で言えば、謎の隠し味を加えなくても、素材だけで美味しい料理ができてしまったようなものです。
この発見で、何が変わるの?
この研究の最大の意義は、「宇宙の始まりをより自然に、よりシンプルに説明できる可能性が出てきた」ことです。
科学の世界では、「余計な仮定が少なくてシンプルな理論ほど、より真実に近い」という考え方があります。これは「オッカムの剃刀(かみそり)」という有名な原則です。その意味で、今回の理論はとても魅力的なんです。
また、これは「重力と量子力学を統一する」という夢の理論への1歩にもなりえます。
今まで「計算が破綻する」と言われていたビッグバン直後の世界が、二次重力理論を使うとうまく計算できる。研究チームはこれを「紫外線完成(しがいせんかんせい)」と呼んでいます。難しい言葉ですが、要するに「極限の高エネルギー状態でも壊れない、完成度の高い理論になった」ということです。
宇宙の始まりの謎は、まだ続く
もちろん、これですべてが解決したわけではありません。
この理論が本当に正しいかどうかを確かめるには、宇宙の始まりを観測で裏付けるデータが必要です。たとえば、ビッグバンの「残り火」とも言える電波(宇宙マイクロ波背景放射)の細かいパターンを調べることで、検証できるかもしれないと言われています。
また、「ではビッグバンの前には何があったのか」という問いに対しても、この理論がどんな答えを出すのか、これからの研究が楽しみです。
宇宙は137億年以上前から存在していますが、私たちはまだその「1ページ目」すら完全には読めていません。
でも今回のような発見が積み重なることで、少しずつ、少しずつ、宇宙の始まりの真実に近づいているんです。そう思うと、なんだかワクワクしませんか?